その4

 

飛行機も安定して、窓の遥か下には海面が見える。
他には何も見えない。

子ども達は、飛行機だからといって特に恐い思いをしているかと言うとそうでもなく、別段普通にしている。
周囲を見渡してみると、グアム便だからか、ビジネス客よりも、行楽客が圧倒的に多く乗車している。
しかも、家族連れ率、それも私たちと同じように幼い子ども連れが多いように感じる。
あまりビジネスマンとかが多かったら、子どもが乗車するのにも気を遣うが、、周囲も同じような子どもばかりだから、その点は気がラクだ。

やがて、ジュースとお菓子が配られる。
お菓子は簡単なビスケットのようなものだった。

娘は鞄から塗り絵を取り出し、テーブルの上で色を塗り出した。
私は何となくぼーっとしながら、通路上方のモニターに映し出された映画をなんとなく眺めたり、機内誌を読んだりしていた。

そうこうしているうちに今度は軽食の時間。

軽食は饅頭くらいの大きさのパン2つ程と、エスニック風味の鶏肉、野菜のソテーらしきもの。
娘はあまり口に合わなかったのか、ほとんど食べなかった。
ふと周囲を見渡してみると、子どもミールを注文している人がいた。
そんなものがあるとは知らなかった。
事前予約制なのだろうか。
もし次回旅行する時があるならば、そういうものを注文しておこう。

 

 

食事も終わり、まだ続いている映画を見つつ、入国審査で必要になるカードの記入を行う。
I-94カードとI-736カードの2種類。一人ひとりに必要だから、計8枚。
それと、税関申告書1枚。


税関申告書

これらを全部書くのが、結構面倒くさい。
パスポート番号やら宿泊先やら。
狭い機内で書くのは結構至難の技だ。

書くのに忙しく、結局映画のラストを見逃してしまい、どんなエンディングだったのかが分らずじまいだったのが悔しい。

日本を経ち、既に2時間は過ぎただろうか。
なんとなく機内は離陸時の緊張感も薄れ、映画も終わり、だるさ加減のようなものが漂ってくる。
子どもを連れて2、3度トイレへ往復。
狭い機内のトイレでは一緒に着いて行くのも難儀する。

やがて、着陸へ向けて着席とベルトのサインがつき、乗客はそれぞれのシートへと戻る。
私たちもシートでベルトを閉めて、着陸へ備える。

飛行機はぐんぐん高度を下げ、雲の下へと降りる。
窓の向こうを見ると、海面の先に緑に覆われた島陰が見える。
グアムだ。

窓の景色は海から一気に島へと切り替わり、グアム特有の低い山々の上を飛びながら滑走路へと一直線に向かう。

高度が下がるにつれ、家の一件一件、車の一台一台がはっきり見える。
熱帯系の植物に覆われた山々。
敷地が広い家々。
赤茶げた土。

滑走路が目の高さ近くまで降り、軽い衝撃と共に、急減速。
飛行機は一仕事を終えたかのように、駐機場へと向かい。静かに停止した。

着くや否や、ばたばたと荷物を下ろす乗客たち。
私たちもゆっくりと列にならって順に降りる。
降りる際に、搭乗口で見送っていたスタッフに「ぐっばい」と声をかける息子。

お。英会話教室へ行った成果が早くもでたか!

飛行機から空港ターミナルに移り、入国審査場まで延々歩く。

私はグアムへ来るのは2度目だが、以前来たのはもう15年位前。
あの当時は空港ターミナル拡張工事の直前で、今ほど広くはなかった。
広くなったとはいっても、日本の国内空港程度のものだし、15年前の事は殆ど忘れているので、どちらかと言えば、新たな気持ちで審査場へ向かう。

審査場では既に長い行列が出来ていた。
大人しく列の後方に並んでいたのだが、息子が機嫌を悪くして、ぎゃーぎゃーとわめき出した。
わめいた所でどうにもならない。並んで順番を待つしかない。

そんなものだと思っていたら、何と、意外にも係員がやってきて、私たち家族だけを先に通してくれた。

息子、ナイス。

家族で入国審査を通る。
久々の海外旅行なので、噂に聞いていただけだったが、機械に手のひらと指とを当てるよう指示された。
入国審査の係員はごっつい体格の女性。
仕事をしつつ、なんか電話をかけていると思ったら、どうやらドリンクを注文しているようだ。
おおらかと言えば聞こえがいいが、いい加減というか…
なんか、職務中に他の事をされるのはどうなのだ。それとも私が勤勉すぎて、気になり過ぎるのか?

あまりいい気持ちのしないまま入国審査はクリア。
機内預けの荷物を受け取りにベルトコンベアへ。

ブザーが鳴り、ベルトが回りだし、ガスンガスンと次々にトランクが落ちてくる。

荒っぽい。

しばらく待って、私たちのトランクも落ちて来た。

ガスンガスン。

トランクを受け取り、税関へと向かう。
これまたごっつい体格の男性に、機内で書いた書類を渡す。

 

何か、怒っているのか?
とにかく無愛想。

 

男性はさっと目を通して、私に一言。

 

 

なに―――――っ

Σ(゚Д゚;)

 

宿泊先のホテル名などは英語で書かないといけなかったらしい。
しかし、そんな事どこにも書いてないし、そもそも、説明書きは日本語で書いてあるじゃないか。





←コレ見たら、「ああ、日本語でいいんだ」って思うじゃないっ!



そう思ったから、こっちは普通に日本語で書いたのに。
男性は冷たく言い放つと、書き直しを命じた。

なんとも言えない腹立たしさを感じつつ、書き直しをする。
すると、他にも同じように書き直しを命じられたのか、何人かが同じように書きに来た。
悔しいので、その人と話をして紛らわす。


同類を求める

カードも書き終え、再び税関へ。

カウンターは他にもあるので、他の人の所へ向かってもいいのだが、あえて同じ男性の所へ。
リベンジに燃える!

係員の男性はさらっと書類に目を通して一言。

「Nothing」

(は?)

最初、意味が全く分らなかったが、どうやら問題ないとのことのようだ。

勝った!
俺はアメリカ野郎に勝ったんだ!

リベンジに勝った勝利感に酔いしれ、ようやく私たちはグアムの土を踏めるのだった。

つづく