遂に楽しかったドイツともお別れの朝が来た。
スーツケースはともかく、自宅の鍵は紛失したままなのだが...

ドイツでの最後の朝食を惜しむように、イモばかりを選んで食べる私。
心いくまでイモを食べ、午前7時、チェックアウト。
ホテルから出ると、なんと外は雪。昨日までは何て事もなかったのに...。

朝7時過ぎとはいえ、まだ夜が明けきらず、薄暗い。
人通りもまばらな雪のミュンヘンの街中を、駅へと向かって、えっちらほっちらスーツケースを引っ張って歩く。

 


明け方のミュンヘン

 

中央駅(地下)に到着。さて、空港までの切符を買わなくちゃ、と、サイフを覗いたら僅かに4E足りない。
もう帰国だからと、ユーロを減らし続けたのはいいものの、帰りの電車賃の事まで考えてなかった。
日本円ならサイフの中にあるのだが、こんな時間にまだ銀行は開いてない。

ドイツの鉄道は改札口がないので、無賃乗車して空港まで行こうかとも本気で考えたのだが、案外、そんな時に限って検札に来るもんだったりするものだ。
やむをえず、ATMでユーロを引き出し。
必要なのは4Eなので、それだけ引き出せればいいのだが、50E単位ででしか引き出せず。結果、手数料も含めてやたらと高い電車賃になってしまった。

さて、なんとか電車賃も調達でき、空港までの切符を購入し、ホームへ。
ところが不運は続くもので、丁度、空港行きの電車(脚注)は行ったあと。
お金の調達にモタモタしていたのがいけなかった。
次の電車までホームで待つこと20分。ようやく空港行きが入線。
飛行機に遅れるんじゃないかとヒヤヒヤする私らを乗せながら、電車は一路空港へ。

 


雪景色の中、一路空港へ

 

考えてみれば、私らってば、京都を出た時も電車に乗り遅れてたし、最初から最後まで慌ただしい。

列車が地下から地上へと出るとすっかり陽は昇り、あたりには一面の雪景色が広がっていた。

途中駅で列車の前半分を切り離して、空港駅に到着。 
空港にて搭乗手続きを済ませて、ロビーへ。
ミュンヘン空港はゲートを通る際の手荷物チェックがなかなか厳しく、ボディーチェックの際、コートまで脱がされた。

フランクフルト行きの飛行機に乗り込み、出発を待つ。しかし、今度は肝心の飛行機がなかなか動かない。
滑走路の途中で止まったまま。待てど暮らせど動かない。何故?
このまま飛び立たなかったら、日本へ帰る飛行機に乗り継げない。
アナウンスでなんか言っているが、英語とドイツ語じゃ聞き取れない。
そうこうしているうちに、作業車が飛行機に横付けされ、ピンク色の液体を翼に吹き付け出した。

 


吹き付けられる液体

 

どうやら雪の対策?その為の作業のようで、結局、飛行機は1時間遅れてミュンヘンを離陸。
そして、あっと言う間にフランクフルトに到着。かろうじて日本への便に間に合いそうだ。

ここで日本へ向かう便との乗り継ぎなのだが、飛行機が遅れたせいで乗り継ぎ時間が1時間あるかないか。
少しあせりつつ地下通路をひた走り、国際便ターミナルへと向かう。
無事辿り着いた私達は早速、出国手続き。

   

出国審査を済ませた私が、次にしなければいけないのは、テディベアの免税手続き。
書類を書いたが、ハンコをもらう事務所が判らず、あちらこちらへと走り回る。
掃除している人に場所を聞いたが、教えてもらった場所がよく判らず。焦る。
書類持ってエスカレーターで下っていたら、反対側の上りエスカレーターを上がっている日本人スッチーらしき人が、「上だよ」とジェスチャーで教えてくれて、慌ててまた上る。

それでも、なんとかそれらしき事務所を見つけ、勢い良く扉を開けたら「出てけ、出てけ!」とばかりに、イカツイ顔の職員に追い出された。どうやら事務所で手続き出来るのは一人ずつらしい。
まあ、そんなこんなで、ビビリながらも免税のハンコget。
税金分を日本円にてバックしてもらう。よかった。

 


出航前

 

そうこうしているうちに、早くも関空便の搭乗開始。
ゆっくり空港でくつろいでいる時間もなかったなぁ....
まぁ、なんしか間に合ってよかったよ。

飛行機に乗り込み、日本の新聞を手にする。

『最後の牛丼に長い列』

久々に目にする日本のニュースが、BSEによる吉野屋の牛丼の販売停止。
相変わらず、日本は平和だ。

そんな新聞記事から窓の外へと目をやると、飛行機はゆっくりと移動し、広い空港のはじっこへときていた。

どんどん速度を増し、離陸。
赤い屋根の家々や、銀色に輝くビルが粒のように小さくなり、やがて雲に被われて消えてしまった。

さらば、ドイツ。

 
 

 

離陸から数時間。
行きの時のワクワクドキドキな期待感とはうって変わって、機内にはなんとなく日本へ帰れる安堵感と、旅行での疲労感が漂っている。
なんか、機内全体的に沈んだ雰囲気。
私ら自身も、行きの時に感じた妙な好奇心も減り、機内食が運ばれてきても、特別キャアキャア騒ぐ事なく、淡々と食事をとる。
もちろん、行きしなにアルコール類を飲み過ぎて失敗した教訓から、帰りでは殆ど飲まずに過ごす。

行きの時は地球の自転に逆らって(大陽と同じ動きで)飛ぶので、いつまでたってもなかなか陽が暮れなかったが、今度は逆。あれよあれよ言う間に陽が暮れる。あっと言う間に夜になるが、体内時計はまだ夕方気分なので殆ど寝られず、携帯ゲームなどをしながら時間を過ごす。

 


神々の世界

 

窓の外へと目をやると、どこかの国の名も知らない街の灯りが足下に近付いては、通り過ぎ、遥か後方へと消えていく。そしてまた灯りが浮かんでは、消えていく。
あの灯り一つひとつに、人の営みがあると思うと、どこか不思議でならない。
同じ様にあの明かりのたもとで、私の乗る飛行機を見上げている人もいて、同じ様なことを考えている人もいるのかも知れない。

 


どこかの街灯り

 

その灯りのたもとに、仕事や勉強でいっぱいいっぱいと感じている人がいたとしよう。
きっと、その人にとってはそれが今の全てで、他のことなど考えられないに違いない。

しかしながら

足下に広がる大地。
覆いつくす空−宇宙。
空の上の私から見れば、その人にとって全ての事でも、私にとってはとても些細な事にしか感じられない。

そう、些細な事。

同じように私にとっていっぱいいっぱいで、その時の私にとって全てである事柄でも、それは実は些細な事ででしかない。

そう。そういうものなのだ。

きっと、人生において重要な事と言うのは、さほどないのかも知れない。

人はもっと自由に、楽に、生きていいのだろうと思う。

 


夜明け

 

そんなことを考えている間にも飛行機はどんどん日本へと向かって進み、やがて前方の地平線が明るくなってきた。
エンジンが朝日でオレンジに染まる頃、飛行機は中国上空を飛ぶ。

さあ、もうすぐ日本だ。

 

 
(脚注)
【空港行きの電車】
S1かS8のどちらでも可。経由するルートが違う。
中央駅から乗る場合、所要時間は共に約40分。S1は途中駅で車両を切り離すので、乗車時には注意が必要。

 

【おまけページ】


そして帰国後は一体.....