西向き

作詞/笹野みちる
inprovisation/3億3千円

“無垢”などというものは 幻想
そこへとつい傾くのは 幼稚で世間知らずな証拠
労を厭う 浮世離れの甘えた見栄っ張りだ
と 何度 諭されてきたことだろうか

清濁合わせもってこそ人間
穢れを知らない人間に人生のなんたるかなど
わかってたまるものか
汚いところに目をつむるな 現実を見ろ そして働け 苦労しろ 
悩め 泣き叫べ 犯されても耐えろ そして諦めろ
それが現実だ 現実を生きろ と

現実

現実という名の下に
暮らしに怯え 孤独に怯え 生にしがみつき 死にすらしがみつき
暗く重い 粘液質なあらゆる種類の欲望が
毎日 有り余っていて 自由に浸り込めたとしても

全てを奪われ踏みにじられ 憎しみと復讐心にまみれ
あらゆる種類の汚名を着せられ 体の隅々からえづくような臭いが立ちこめ
もう 殺す他は 死ぬよりなかったとしても

それでもなお 私の最も内側から 疼くような囁きが聞こえる

混乱と狂気 矛盾と絶望 間断なく続く痛みや恐怖のただ中に 
不条理なほど流される血や腐乱した肉や糞尿や
ねばつく絡み合った 獰猛な貪りを突き抜けたその向こうに

静まり返った囁きが聞こえる

私はここに存在する

ひたすら光でしかないようなものが 圧倒的な力で
この瞬間に 存在し続けている
全てを貫き 隈無く 存在し続けているのだと

何度も何度も それを知りたくて仕方がなかったはずなのだ
そして 何度も 何度もそれを欺いてきたに違いない

いくつもの悲痛な経験が 今 大きな決意の種となって
私を育み この世に産み落としたのだとしたら
今度こそは しくじらない

それこそがまたもう一度
飽くこともせず憧れがちに生まれついた理由

言い聞かせろ 言い聞かせろ
全ての現実は“それ”を知るまでの上等な遊戯
それが幻なら お前も幻

受け継がれていくものは 無垢への意志

 

インディーズソロ1stアルバム「ナカナオリ」収録