曇り空のベクトル

もうどれぐらいの長い間 この脈動は続いているのか 
けっして海へと続かない 輪のように閉じた川の流れのようだ
それでもこの脈動が途絶えることは一度としてなく 今日も相変わらず回り続けている
テイクアウトのコーヒーを吸い付くように小さな穴から飲みながら
お前と会い あいつと会い 今日もまた微笑んで語らう

NYのビルに飛行機が突っ込んだときに思ったんだ
あの親父の祈りはどこに届いているのだろうかって
ひたすらに明け渡し明け渡し明け渡していった人達の明け渡したものが
もしかしたら 誰かに盗まれていたんじゃないだろうかって
そんなことを微かに思っても この閉じた川を回り続けるしかない

威勢のいい友人 打ちひしがれた友人 初めて会う友人 見守っていくべき友人
その全ての人達との関わりを点と点で結び 全ての中点に自分の立ち位置を据えた
微笑みの下で 胸のあたりの僅かな寒気と震えに気付かれぬように 慎重に慎重にと歩んできた
そう 一番 この自分に気付かれぬようにと 
それが引き起こす結果に直面しなくて済みますようにと

脈動が力となって人生をかけめぐり どこかへ飛び出したくてときどきたまらなくなる
定期的に会う幼なじみは その飛び出していく力と方向を
きれいな矢印として 会う度にいつも冷静に示してみせる
それを受けて話が自分の番になりながら ぼんやりとしたイメージに捕らえられていく
本当に飛び出しているのか 濁流となって閉じた川が回り続ける

優しすぎるのか あるいは傲慢すぎるのか 臆病すぎるのか ただ億劫なのか
常にこういう風に祈ってきたんだ 「もしもこの願いが間違っているのであれば どうか止めて下さい」って 
そして 結果は大抵間違っているらしかった
大抵 大抵 大抵 願うことは間違っているらしかった 

祈りは聞き届けられ続けている

この俺は世界と違っておおらかな愚か者で在り続けている

曇り空 それもまたよし
届かなかった 夢もまたよし
曇り空 それもまたよし
届かなかった 夢もまたよし

 

5thアルバム「たこみたい ねこみたい」収録
02年2月2日スタパにて初披露